外国語の習得はよく、「水道の蛇口をひねって、バケツに水をためるようなものである」と例えられます。
私はこの例えを次のように解釈しています。
蛇口をひねる=外国語を勉強したり、練習したりすること
蛇口から落ちる水滴=得られた知識や技能
水滴を受け止めるバケツ=あなたの外国語の能力
自分の学習の成果や成長が感じられたりするのは、このバケツから水が溢れた時です。
外国語習得のプロセスは、誰にとっても同じで、このようにバケツに水をためていくことでしかなし得ません。難点は、このバケツは外から見えない作りになって、自分ではいつ水が溢れてくるのかがわからないということです。したがって、外国語の学習者は、「いくら勉強しても、成果が出ない」「自分の英語力が伸びる気がしない」「自分は一生英語力をあげることができないのではないか」というような不安な気持ちになったりするのです。
バケツの中身が見えて、あとどのくらいの期間で水が溢れ出すのかを知ることができたら、常に前向きな気持ちで勉強ができそうですよね。残念ながら、あとどのくらいで自分の英語力が伸びるのか、自分の目標を達成することができるのかを知る術はありません。しかし、自分が確実にバケツに水を蓄えていっているということを確認する方法があります。それが、学習記録です。
学習記録というと、これまでに学校でやらされてきたなんとも面倒臭そうな響きがしますが、今日紹介するのは、人に見せるためではなく、自分を励まし、学びを改善するための記録です。ここでは2種類の学習記録の方法を紹介します。
方法1
1. 1ヶ月カレンダーを用意する。
2. 自分の設定した学習計画の進度や内容を記録する。例:自主学習時間(1h)、学習内容(1ページ、3ユニット)、英語を使った時間(30分)、模擬テストの正答数やスコア(25/40や70点)など。
3. 定期的に振り返りを行い(1、2週間に1回程度)、良かった点と改善点を考える。
方法2
1. ノートを一冊準備し、常にそのノートを使って勉強をする。
2. 自分が間違ったところや覚えたいところは、マーカーで印をつけ、何度も見直す。
私は、方法1を大学院の論文執筆の際に利用しました。私はかなりの遅筆で、論文執筆中はよく、「このままでは締め切りに間に合わない=イギリスまで勉強にきたのに、学位が取得できない」「やはりイギリスの大学院は、自分にはハードルが高かったのか」などいうような、ネガティブな考えに苛まれていました。その時に始めたのが、毎日自分が書いた単語数を記録するということでした。すると、自分が日ごとに書いている単語数が少しずつですが、増えていることに気づきました。小さなことですが、それは真っ暗闇の中にいた私にとっての希望の光でした。それからは、毎日単語数記録の更新をすることが私の中の小さな目標となり、日々の目標達成を繰り返す中で、無事に論文を完成させることができました。
方法2は、TOEICやIELTSの勉強をしていた時に利用しました。テスト形式で問題をひたすら解き、間違えた部分をやり直し、次のテストにつながる知識や自分が間違えやすい文法や単語にはマーカーで印をつけ、何度も見返すようにしました。テスト直前には、ひたすらそのノートを見返すことで、自分の弱点を効率的に振り返ることができましたし、何冊にも渡る学習ノートを見ることで自信を持ってテストに臨むことができました。
今、なんとか自分の外国語能力を上げたいと努力している方。記録をつけてみませんか。そうすることで、自分の学習に自信をつけたり、取り戻したりすることができます。また客観的に自分の長所と短所に気づくきっかけにもなります。
また、日本人が英語を習得するのにかかると想定される学習時間は、2,200時間です。日本人の中高大を合わせた平均的な英語学習時間は、1,120 時間だと言われています。(廣森, 2017, p.33)学習記録をつけ、積極的にこの圧倒的な不足分1,080時間を補っていこうという取り組みも有効かもしれません。
出典
廣森友人(2017)『英語学習のメカニズム:第二言語習得研究にもとづく効果的な勉強方法』大修館書店.
SALC Language Advisor
ETO Tomoko